平成19年(行ウ)第26号    政務調査費返還請求行為請求事件

原告 呉羽 真弓

被告 木津川市長 河井 規子 

 

原告準備書面(3)

平成20年7月  日

京都地方裁判所第3民事部合議C係 御中

                       原告   呉羽  真弓

                     

             

原告の主張

 

第1 被告の言う3000円の差額の合理性(被告第1準備書面P7より)

 

被告は、「本件条例は、会派と無会派議員の間に取り扱いの違いは認める」が、「会派所属議員と無会派議員の間に取り扱いの違いを認めるものではない」と述べた上で、「会派と無会派議員では、調査研究等に以下の通り、なし得る調査研究等の活動内容、活動規模等に差異がある」と考えられることから、金額を上乗せしたと述べている。

そして、その差異として以下の3点を具体的に挙げている。 

@   規則で会派のみ支出を認めるもの  

研修費 会派が行う研修会、講演会の実施に必要な経費

     (会場費、機材借上げ費、講師謝金)

A   申し合わせで会派のみ支出を認めるもの

  広報費 議員個人名による会報は、支出の対象としない。 

B   無会派議員より規模・頻度が多いことが想定されるもの

  例:会派の勉強会にかかる経費

会議費、資料作成費、事務費 

以上の理由から、約1.5倍の金額の上乗せをして、交付することとし、この金額差は合理的であると、被告は述べている。 

 

2 差額の理由の具体的な事例について(被告釈明より) 

1 研修費について 

被告が合理的理由の1つとする研修費について、具体的にどのようなものなのかを提示してもらうために、原告が釈明を求めた結果を以下にまとめる。

「会派と無会派では、なし得る調査研究費の活動内容、活動規模等に差異があると考えられる」との被告主張に対し、原告がどのような差異があるのかと釈明を求めたところ、被告は「会派においては、複数の議員が市政に関する諸問題について調査、研究の必要性を提言し、調査、研究のための研修会等を開催することが想定される」(第1準備書面)と述べている。原告は、再度「会派にのみ支出を認めている研修会・講演会とは具体的にどういうものか、そして無会派議員に認めないのはなぜか」と釈明を求めた。それに対し、被告は、「会派、無会派議員のいずれにも研修費としての使用を認めており、前提を欠くため、釈明の要を認めない」(第3準備書面)と述べている。

以下の使途基準や、被告第1準備書面P7においても、被告が述べていること、上記第3準備書面の被告主張とは、整合性がみられない。

本件規則を精読の上、改めて回答されるよう求める。ちなみに、本件規則の文言上は、会派所属議員に関しては、自ら開催する研修会、講演会の実施に必要な経費を政務調査費から支出することが認められ、無会派議員に関しては、それが認められないように考えられるがどうか。無会派議員についてのみ、自ら開催する研修会や講演会の実施に必要な経費を政務調査費から支出させない根拠はなにかを明らかにされたい。

 

会派に係る使途基準(本件規則第5条関係別表1)

項目

内容

研修費

会派が行う研修会、講演会の実施に必要な経費並びに他団体が開催する研修会、講演会等への所属議員の参加に要する経費

会場費、機材借上費、講師謝金、会費、交通費、宿泊費等)

 

無会派議員に係る使途基準(本件規則第5条別表2)

項目

内容

 

研修費

団体等が開催する研修会、講演会等への無会派議員の参加に要する経費

(会費、交通費、宿泊費等)

                  上記の表は、該当箇所を抜粋したもの

  

2 広報費について

 被告が合理的理由の1つとする広報費について、会報の中身をとりあげ、検証する。

広報とは「広く知らせること、またはその知らせ」(広辞苑より)「官公庁、企業などが施策、業務活動などについて広く大衆に知らせること、またはその知らせ」(言泉より)との定義であり、そもそも「調査」ではない。仮に広報費を政務調査費から支出することが許されるとしても、イレブンの会の会報(甲第12−1,2,3号証)と今回追加で提出するイレブンの会会報NO4号(甲第25号証)のP2・3は、議員個人の活動報告並びに挨拶文である。第3で後ほど述べるが、住民の意見を議会活動に反映させる目的のものになっていない。

被告は、「本条例の使途基準にある広報であるが、会派の会報であっても議員個人の活動の報告にかかる部分は、含まれないのではないか」(原告準備書面1)との原告の求釈明に対し、「理論的には、会派所属議員個人の活動報告は含まれない。しかしながら、会派所属議員の活動には、会派の活動と議員個人の活動が不可分一体となっている面は否定し難い」(被告第2準備書面)と述べている。また、「会派の議会報告の体裁が整ってさえいれば、議員個人の活動報告であっても認められるということか」(原告準備書面2)と再度説明を求めたところ、被告は「本件条例11条1項に基づき提出された収支報告書を精査し、当該事業について使途基準外の政務調査費の支出があると認めた場合には、使途基準外に相当する額の返還を命ずることになる」(被告第3準備書面)と答えている。

本件規則第5条関係別表1(乙第9号証)の使途基準によると、広報費の内容は「会派が行う議会活動及び市政に関する政策等の広報活動に要する経費」である。被告は、イレブンの会会報は使途基準に適応していると精査されたのか、回答を求める。尚、現時点で、イレブンの会が政務調査費の返還を求められた事実は確認できていない。したがって、木津川市としては、議員個人の活動報告が多くの部分をしめる会報への政務調査費の支出を認めたことになる。しかし、会派への所属の有無によって、個人の活動報告にかかる費用を政務調査費から支出することの可否が決せられるとなれば、それこそ議員平等の原則に反することになる。

  

3 会議費、資料作成費、事務費について 

 被告が無会派議員より規模・頻度が多いことが想定されるとして差額交付の合理的理由の1つとして例を示してあげている会議費について、以下に述べる。

被告は、研修会とは「市政に関する諸問題や政策を議論する場」(被告第2

準備書面)であると述べている。会議費との違いが不明確であったため、原告は「使途として認められている会議費とどう違うのか」と釈明を求めた。それに対し、被告は「本件規則5条所定の別表1及び2に記載しているとおりである」(被告第3準備書面)と述べている。

 研修会が市政に関する諸問題や政策を議論する場であるのなら、会議は何を議論する場なのか、明快な区別をもって回答するよう求める。

会派に係る使途基準(本件規則第5条関係別表1)

項目

内容

会議費

会派における各種会議に要する経費

(会場費、機材借上費、資料印刷費、茶菓子代等)

 

無会派議員に係る使途基準(本件規則第5条別表2)

項目

内容

会議費

無会派議員が行う市政に関する住民の要望、意見を聴取するための各種会議に要する経費

(会場費、機材借上費、交通費、資料印刷費等)

          上記の表は、被告が説明する該当箇所を抜粋したもの

  

第3 差額交付の合理性の考えを実態に照らして言えること 

1 19年度政務調査費交付・支出実態比較 

 被告提出の収支報告書(乙第11,12,13,14号証)を基に以下の表を作成した。会派に対する政務調査費は当該会派の所属議員数に月額1万円を乗じて得た金額であり、19年度は10ヶ月分でイレブンの会110万円、伸政会80万円、共産党40万円、公明党20万円であった。日本共産党の申告額は、どこに政務調査費が使用されたか不明確であるため、以下のように調整し、政務調査費の適用額を明確にした。日本共産党の報告書は、結局のところ、政務調査費の使途が不明確であり、違法の疑いが濃厚であることを付け加える。 

         19年度政務調査費の支出報告実態表

会派名

(人数)

イレブンの会

11人)

伸政会

8人)

日本共産党4人)

公明党

2人)

申告額

×40/70

交付額

1,100,000

800,000

400,000

 

20,0000

調査研究費

210,140

269,640

150,880

86,217

 

研修費

 

 

 

 

 

会議費

 

2,000

10,120

5,782

 

資料作成費

 

 

 

 

 

資料購入費

133,550

 

 

 

46,300

広報費

747,538

192,444

246,771

141,012

 

事務費

10,068

10,278

355,499

203,142

10,068

合計

1,101,296

474,362

763,270

436,154

56,368

   残余は、返還するとある。                  (円) 


2 差額交付の合理性についての被告主張と支出実態を照らして 

会派にのみ支出を認めている「会派が行う研修会・講演会」を含む研修費については支出実態がなかった。

また、会派の会報にのみ支出が認められている項目である広報費に対する支出割合が大きい会派が3会派あり、それぞれの会報発行回数は、イレブンの会4回、伸政会1回、共産党3回である。公明党は、会報を出していない。イレブンの会については、支出の7割を広報費で占めており、しかも、個人の活動報告が大部分をしめてしまっている。端的にいえば、同会に対して交付された政務調査費は、結局のところ、同会に所属する議員の個人広報費として費消されてしまっているのが実態である。しかし、それが本来の意味での「政務調査」と大きく乖離していることは指摘するまでもない。

無会派議員より規模・頻度が多いことが想定されるとした、会議費、資料作成費、事務費については、会議費は、伸政会と共産党が市政報告会を開催しているが、他の2会派は支出なく、資料作成費はいずれの会派とも全く支出がない。また、事務費については共産党の支出割合が大きく、残り3会派はほぼ同額である。この同額の金額は、インターネット回線使用料であり、全使用料を会派+無会派議員の5で除して支払っているものであり、無会派議員の原告も同額の使用料を支払っている。ちなみに、共産党の事務費には、パソコン・コピー機の賃貸料、及びコピー機の補修料が大きな額を占めている。ちなみに、同党は単なるコピー機等に関する費用を支出したことになっているが、政務調査に関係のないコピー代を政務調査から支出することは、そもそも許されない。同党が経費としてあげているコピー機は、議員控え室に設置されているもので、政務調査以外の目的でも使用されている疑いが濃厚である。したがって、違法支出に該当するおそれが大きい。

以上、被告が合理的理由として挙げている差異について、実態と即して検証した結果、使途実績からは3000円の支出の根拠が到底見られない。特にイレブンの会については、支出の7割を広報費で占めており、会報を出すための政務調査費となっており、会報の内容自体、本来の政務調査の目的に照らして市民の意見を聴取したり、報告したりするという要素を見ることができない。ゆえに、政務調査費の使途基準と照らして大いに不適切である。また、共産党についても、支出の5割を事務費が占めており、政務調査の目的にかなっているのか甚だ疑問である。よって、金額差が合理的であるとする被告の主張は、使用実態と照らした結果、社会的事実の存在が見当たらない。 


第4 総括 

 今まで指摘したことを前提として、本来支出が許される範囲に絞り、シュミレーションしたものを以下にあげる。

      19年度政務調査費支出適用範囲をシュミレーションした表

会派名

(人数)

イレブンの会

11人)

伸政会

8人)

日本共産党

4人)

公明党

2人)

交付額

1,100,000

800,000

400,000

200,000

調査研究費

210,140

269,640

150,880

 

研修費

 

 

 

 

会議費

 

2,000

10,120

 

資料作成費

 

 

 

 

資料購入費

133,550

 

 

46,300

広報費

  

   

         

 

事務費

10,068

10,278

 10,068

10,068

合計

353,758

281,918

171,068

56,368

支出合計額A

10,068

12,278

   20,188

  10,068

B

       0

    2,210

10,120

     0

C

       0

     276

 2,530

     0

                               (円)

  その上で、会派の方がより頻度が多いと被告が主張する項目、会議費、資料作成費
、事務費の支出額を合計すると、イレブンの会は10,068円、伸政会は2,000円+10,278円
=12,278円、共産党は10,120円+10,068円=20,188円、公明党は10,068円(表Aの項目)
である。第3の2で述べたように、原告も事務費であるインターネット回線使用料の
10,068円を支払っていることから、Aの額からその額を減じると、イレブンの会は0円、
伸政会は12,278円−10,068円=2,210円、共産党は20,188円−10,068円=10,120円、
公明党は0円(表Bの項目)である。さらにBの額を会派の人数で除すと、伸政会が276円、
共産党が2,530円となり、他の2会派は0となる。また、Bの金額を交付月数の10で除すと、
伸政会は27.6円、共産党は253.6円となり、無会派議員の7000円と比較してそれぞれ
1.003倍、1.036倍、あえて言うならイレブンの会、公明党は1.0倍であり、約1.5倍もの
差を設けた根拠は見出せない。
結局のところ、非常に残念なことであるが本来望まれる「政務調査」の費用はほとんど
支出されることなく、そもそも会派の政治活動費として独自に支出すべ経費を「政務調査」
の名をかりて公費から支出させているにすぎず、一般市民に対する裏切りである。

以上の通り、少なくとも木津川市においては、会派所属議員と無会派議員の間に約1、5倍もの金額差を設け、議員平等等の原則に反する政務調査費を支出しなければならない合理的な理由も、また、それを裏付ける社会的な実態も存在しない。したがって、本件条例に基づく政務調査費の支出のうち、会派所属議員への上積み部分は、憲法第14条1項に反している。